もんじゃサクライ内観 ■もんじゃサクライ
足立区西新井6-21-3
不定休(月に土曜1/日曜3回程)
もんじゃ 80/150/200円
1970年頃・開店


もんじゃとハガシとせんべい 「ぼったら最強」=「駄菓子もんじゃ最強」の名をほしいままにした刈部。閉店後伝説として語り継がれる刈部。もうあのレベルのもんじゃは喰えないのかと、川口駅西口の「田んぼや」がぼったらを辞めた今となっては諦めながらも、駄菓子もんじゃ的なるものの噂を耳にしては東奔西走してきたが、いやはや、そのアホ丸出しの愚行は徒労に終わらなかった。

 場所は西新井大師そば。とある小学校の裏手の住宅街、まるで部外者の侵入を阻止するような路地裏にプレハブのような佇まい。 ここは駄菓子屋ではなくもんじゃ店として営業している。しかしその風貌は現代に奇跡的に残る駄菓子屋の風情そのものである。 店内に入ってその昭和的な空間に驚くが、それ以上に驚きなのが価格。80円〜スタートで、200円まで。気さくなオバチャンが「値段は量の違いだからね」と教えてくれたが、申し訳ない、そんなことは百も承知、二百も合点なのだ。
 当然200円分に、こちらははじめてなので遠慮してベビーラーメン2つ。メニューにベビーラーメンと書かれていたのでそう注文したが、これはベビースターというより「やきとり屋さん太郎」の類だろう。この佇まいだ、間違うはずがない。しかしこの店は常にこちらの予想を上回ってくる。なんと出てきたのは自家製の袋詰め。よくみると色見の違うものが混ざっている。一度開封してばらした「やきとり屋さん太郎」などなどをブレンドして、袋詰めしなおしているのだ。この手の商品は若干味の濃さが違う。そこを配慮しての仕事なのだろう。オバチャン、只者ではない!?
 ツレがそれを丼に投入するオバチャンに向かって「やっぱラメックっすよね!」というや、オバチャンの表情が変わった。 「そうそう、最近の子はラメックっていってもわかんないのよね」 ラメックはぼったらに無くてはならないものだった。しかしラメックが製造中止になってから「やきとり屋さん太郎」などにとって変わったが、ラメックという名称はウォークマンのように総称として残っていった。
 ラメックと聞いて黙っていられないのがオレ。つい調子の乗って、ベビースターとラメックの違い、そして如何にベビースターがもんじゃと相性が悪いかについてとうとうと語ってしまったが、オバチャンは実に嬉しそうに頷き続けてくれた。ちなみに、ベビースターはラメック類よりも太く長く味が濃い。もんじゃの味は大半がソースによる味付けなので、ベビースターのように存在感もあって味が濃いと、もとのソースとのバランスが壊れてしまうのだ。ただ、豆知識として、ベビースターしかない場合、開封前に両手で揉みまくって粉々に砕いてから丼に投入すると幾分存在感が和らぐ。

サクライのもんじゃ  で、ラメック(もう既にこの店ではベビーラーメンと表記してあってもラメックと呼ぶことに決めた)2コ入り200円もんじゃの到着。 見た目茶色が濃いが、かき混ぜると底の小麦粉の濃い部分が浮上。コーヒー色に混ぜていざ鉄板の上に。
 もちろん、土手は愚か、丼の中すべてを鉄板にぶちまけることはしない。食べるぶんだけその都度焼く。一応オバチャンが「ちょっとずつ焼いてね」と忠告してくれるが、「あれは月島だけの地方ルールですよ!」とオレ、フォロー。
 鉄板にのったもんじゃから焦げたソースが香ってくる・・・あれ? なんか違う。最近食べたいくつかの駄菓子もんじゃとは一線を画す、スパイシーですらある臭い。とろみと甘みのある丸い味わいのソースとは明らかに違う。確か、どこかで嗅いだことのあるような。。。
 それは口にしたとたん、疑念から確信へと変わった。

 刈部の味だ!!!!!!!

 うまいっ! 10年近く忘れていた味だ。これまで駄菓子もんじゃが食べられるというだけで喜んでいて、刈部の真の凄さを忘れてしまっていたようだ。そういえば刈部もオバチャン独自のブレンドソースだといっていた。使っているソース、その配合は当然違うだろう。だが、明らかに片手間に市販のソースを投入しただけではないという点で一致している。もんじゃが差異化をはかる、その店のアイデンティティというのは、海老を入れたり牛肉を入れるものじゃない。味のコアとなるソースである。ソースの味こそがその店の味なのだ。
 この味に打ち震えるオレにオバチャン気づいた模様で、「おいしいでしょ?」と聞いてきた。
 いや、おいしいなんてもんじゃない。探していながらも忘れていたものに気づかせてくれたのだから。
「ね、昔の味でしょ? これはね、昔からずっと変えてない配合のソースなの。オバサン、これだけはどこにも負けないって自信あるのよ。」 ここから、トッピングだけ豪勢で値段ばかり高くて味の単調な凡百のもんじゃについてオバチャンとつい長話をしてしまった。
 諸々の話をここでまとめると、昭和45年開業。千住や荒川では「ぼった」という名称だが、西新井では開業当時から「もんじゃ」と呼ばれていたという(ちなみに川口・浦安は「ぼったら」)。最近は子供の客が激減、自分のようないい年した輩が多いようだ。しかし飽く迄もんじゃはこどものおやつという観点から、おこずかいで食べられる価格設定にしているとのこと。
 こんな話をしている最中に一組、中学生くらいの女の子2人連れが来た。なんだ、子供もくるんだと思ったら大間違い。この手の店のコア層は小学校中学年〜高学年で、中学生くらいになると足が遠のき、特に女の子は駄菓子は卒業という感覚が非常に強い。外で小学生が遊んでいたが、一向に入ってくる気配がない。
せんべいの芸術  この女子二人連れ、常連と見えてオバチャンに「今日は(ラメック)5コ入れないの?」などといわれている。ラメック5コ!? この時点でかなりのつわものである。さらに我々の退店時、残った汁で特大せんべいを作っていた。このサイズで破けることなく成形するのは相当食べなれてる証拠である。ツレのS田氏が写真を撮らせてもらい(こういうところでの彼の機転とフットワークの軽さには本当に感心する)、驚嘆しているとオバチャンに「あんたらよく食べてたんじゃないの?」とからかわれた。いやはや、食べ手も相当にレベルの高い店と見た。
コーヒーパレード  ちなみに、飲み物にメロンとあったのでてっきりメロンソーダかと思ったら、チェリオのメロン味だった。相変わらずケミカルで結構なお味でした。一緒にコーヒーも頼んだが、出てきたのがコーヒーパレード。現存してたのか!?

 卒なく首尾よく完食。感動の余韻に浸りながら、店を後にした。最後に不定休なので来る時は電話くれと、電話番号のメモをそっと渡してくれた。カッコイイなぁ、オバチャン。
 そういえば、帰り際、オバチャンは貴重な情報もくれた。なんと、この界隈にはもう一軒現存する駄菓子もんじゃがあるというのだ。ざっと位置を教えてくれて、帰りしな場所を確認してきた。あまりの感動的な味に口中の余韻を邪魔されたくないと連食は避け、次回のお楽しみにとっておくことにした。また暫くしたらそっちの店のレポも出来ると思う。乞うご期待!